経歴の詐称は、就業規則で懲戒解雇事由として定められていることが多く、そうでなくとも普通解雇事由となりえます。
学歴や職歴はもちろん、前科・前歴、懲戒歴といった情報も、労働者の適性の評価に関わるものとされ、採用時に虚偽の申告をしていたことが判明した場合、懲戒解雇又は普通解雇の事由となる可能性があります。
では、就職を希望する労働者は、採用の過程で、そのような自己に不利な情報を自ら告げる必要があるのでしょうか。自ら告げなかった場合、そのことを理由に、経歴詐称にあたるとして懲戒解雇又は普通解雇とされうるのでしょうか。
この点、経歴詐称が懲戒解雇事由となりうることを認めた炭研精工事件東高判H3.2.20労判592号77頁(最判H3年9月19日労判615号16頁によって上告棄却)は、学歴の詐称を懲戒事由として認めつつ、質問を受けていない公判係属中の刑事事件について告知する義務があったということは相当でないとし、自ら告知しなかったことが懲戒事由に該当することを否定しています。
「告知すれば採用されないことなどが予測される事項について、告知を求められたり、質問されたりしなくとも、雇用契約締結過程における信義則上の義務として、自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない」と明言し、自己の言動がセクハラ、パワハラとして告発されて勤務先で調査中である事実について自ら告げなかったことを解雇事由に当たらないものとした裁判例もあります(学校法人尚美学園事件H24.1.27労判1047号5頁)。