採用の際に自己の犯罪歴を秘匿していたことを理由として、普通解雇又は懲戒解雇されるケースがあります。
この解雇が有効であるとすれば、労働者は採用の際に(尋ねられた場合には)自己の犯罪歴を申告する義務があることになります。
最高裁は、会社が採用の際に労働者に対し、「労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な理由で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う」としています(炭研精工事件最高裁平成3年9月19日判決・労判615号16頁)。このことからすると、労働者の犯罪歴は「企業の信用の保持」に関係する事項にあたり、労働者に申告義務があることになりそうです。
しかし、労働者に前科があると知りながら、その労働者を進んで採用しようとする企業は稀でしょう。そうすると、もしも一般的にこの義務を認めるなら、一度犯罪を犯した者の就職は極めて困難となり、更正の途が閉ざされてしまいかねません。
この点、マルヤタクシー事件仙台地裁昭和60年9月19日判決(労判459号40頁)は、刑法34条の2が刑の消滅を規定していることに着目し、「職種あるいは雇用契約の内容等から照らすと、既に刑の消滅した前科といえどもその存在が労働力の評価に重大な影響を及ぼさざるをえないといった特段の事情のない限りは、労働者は使用者に対し既に刑の消滅をきたしている前科まで告知すべき信義則上の義務を負担するものではないと解するのが相当であり、使用者もこのような場合において、消滅した前科の不告知自体を理由に労働者を解雇することはできないというべきである」と判示しました。
少なくとも刑の消滅が認められる場合には、上記裁判例の見解に従って、特段の事情がない限り労働者に犯罪歴を告知すべき義務は無いと解すべきであると私は考えます。