使用者が違法な人事措置を行い、労働者の従前の職場での就労を拒絶(典型的には解雇)した場合、使用者の帰責事由に基づく労務の履行不能となり、労働者は不就労期間の賃金を請求することができます(民法536条2項)。
これに対し、使用者が違法な人事措置を撤回したにも関わらず、労働者が職場に復帰しない場合、使用者の帰責事由に基づく労務の履行不能とはいえないため、以後の期間については賃金の請求は認められなくなるのが原則です。
もっとも、裁判例の中には違法な配転命令によって労働者が民法536条2項に基づく賃金請求が可能な状態となった後に、使用者が当該配転命令を撤回した後の期間についても賃金請求を認めたものがあります(ナカヤマ事件福井地判平成28年1月15日労判1132号5頁)。この事件の裁判所は、使用者が配転命令を撤回したものの、その違法性を認めず、その他残業代の未払等についても争っていることから、配転命令により破壊された信頼関係が回復されていないことを理由に、なお不就労を使用者の帰責事由によるものと認めています。
上記裁判例のような考え方に従えば、違法な解雇が撤回された場合であっても、使用者が解雇の違法性を認めないことを初めとする諸般の事情から、信頼関係が回復されていないといえる場合には、職場復帰しないまま賃金請求が可能なケースがありうることになるでしょう。