「退職金は正社員が退職したときに出る(可能性がある)ものであって、非正規社員に退職金はない」という認識は、一般常識の部類に属するのではないかと思います。
ところが、近時、正社員に対しては規程に基づいて退職金を支給しつつ、有期雇用の契約社員に対しては退職金を全く支払らないことが、労働契約法20条に違反し、不法行為にあたるとして損害賠償請求を認めた裁判例が出ました(メトロコマース事件東高判H31.2.20労判1198号5頁)。
労働契約法20条は、有期雇用の労働者の労働条件と無期雇用の労働者の労働条件との間で不合理と認められる相違を設けることを禁止しています。
上記判例の事案で東京高裁は、退職金には賃金の後払いの性格のほか、長年の勤務に対する功労報償の性格もあることを指摘し、少なくとも後者の性格を有する部分について一切支給しないことは不合理であるとしました。結論としては、正社員と同一の基準に基づいて計算した額の4分の1相当額を損害と認め(同社の退職金のうち、少なくとも4分の1が功労報償の性格を有する部分だとしました。)、会社に支払いを命じました。
上記裁判例は、判例誌の解説では、(労働契約法20条に基づく請求について)「退職金について一部分であっても請求を認めた例は初めて」と紹介されています。
上告もされていて最高裁がどう判断するかは分かりません。
今後の判例の動向が注目されます。
仮に上記裁判例のような判断が判例として固まっていくようであれば、非正規として長年同一の会社に勤務している労働者の方にとっては、少なくない額の請求が可能となりえますから、朗報といえるでしょう。
なお、労働契約法20条は、R2年4月1日廃止され、同条の内容とする規律は、同日以降、短時間労働者に関する同様の規律と統合され、短時間・有期雇用労働者雇用管理改善法8条として一本化されることになります。
〔追記〕
最高裁は、R2年10月13日、上記メトロコマース事件について退職金の請求を退ける判決を出しました。
もっとも、当該事案において退職金の不支給を不合理な格差と認めることができないとしたものであって、一般論として退職金の不支給が不合理な格差となる場合があることは明示的に認める判示をしています。
(R2年10月14日追記)