「同一労働同一賃金」という言葉をよく聞くようになりました。
一部には、文字どおり「同一の業務に従事していれば同一の賃金が支払われなければならない」という法的ルールが導入されたかのように誤解されている向きもあるようですが、そうではありません。
現在のところ、わが国の実定法において「同一労働同一賃金」の実現を図るために導入されている制度は、短時間労働者又は有期雇用労働者と通常の労働者との間(又は派遣労働者と派遣先の労働者との間)の待遇の相違について、待遇が業務の内容のみによって決定されるものではないこと、他の要素(責任の程度、配置の変更の範囲、能力、経験、勤続年数等)を考慮して決定されうるものであることを認めつつ、考慮要素が同一なら同一の待遇を、考慮要素が相違するなら相違に応じて均衡の採れた待遇を求めるものです。
すなわち、法律は、「不合理と認められる相違」を禁止するという条文になっており(短時間・有期雇用労働法8条)(労働者派遣法30条の3も同様)、「合理的とはいえないが不合理とまでは認められない」相違を許容する趣旨と解釈されています(菅野和夫『労働法〔第12版〕』365頁)。
裁判例でも、これまで、多くの場合、基本給の差異に関しては、求められている能力や予定されている配転の範囲に相違があることなどを理由として違法性を否定されており、違法性が認められてきたものの多くは、精皆勤手当、住宅手当、通勤手当等の手当です。結果として、請求認容額もわずかな額に止まっています。
わずかな手当の相違であっても、是正を求めていくことは、非正規労働者の待遇を向上させるために重要な社会的意義があると思いますが、個々の労働者が時間と労力、費用を掛けて争うには見込める成果として小さく、労働者個人が取り組む請求としては、現実的な課題にはなりにくかったと思います。
しかし、近時には、退職金の不支給について不合理な相違であると認める裁判例が現れています(短時間労働者について京都市立浴場運営財団ほか事件京地判H29.9.20労判1167号34頁、有期雇用労働者についてメトロコマース事件東高判H31.2.20労判1198号5頁)。
退職金であれば、通常の労働者と同一の基準によって算定された額が認められればもちろん、一定割合で減じた基準によって算定された額が認められるとしても、それなりの金額となる可能性があります。
したがって、退職金であれば、個々の労働者にとっても、請求を検討してみることが現実的な課題となりうるでしょう。
さらに短時間・有期雇用労働法15条に基づいて「同一労働同一賃金」にかかるガイドライン(H30.12.28厚生労働省告示第430号)が定められ、基本給や賞与にかかる相違についても違法となる場合の考え方や例が示されています。今後、裁判所は、基本給や賞与等のより重要な待遇の相違についても、このガイドラインの内容を踏まえて、その許容性をより厳しい判断を示す可能性があり、注目されます。
〔追記〕
最高裁は、R2年10月13日、上記メトロコマース事件について退職金の請求を退ける判決を出しました。
もっとも、当該事案において退職金の不支給を不合理な格差と認めることができないとしたものであって、一般論として退職金の不支給が不合理な格差となる場合があることは認める判示を明示的にしています。
(R2年10月14日追記)