定年制を設けている会社は、高年齢者雇用安定法の平成16年改正により、65歳までの継続雇用制度の導入(又は定年年齢の65歳までの引上げ若しくは定年制の廃止)を義務付けられています。同年改正法は、労使協定によって継続雇用の対象者を限定することを許容していましたが、それも平成24年改正により段階的に廃止するものとされました。
今日、60歳定年を迎えた労働者について、会社は希望者全員を対象とする継続雇用制度を導入する義務を負っています。
しかるに、60歳定年を迎えた労働者に対し、会社が恣意的に継続雇用を拒絶した場合、当該労働者は、どのような請求をすることが可能でしょうか。
まず、会社が継続雇用制度を設けており、制度の適用により当該労働者の労働条件が一義的に定まる場合には、労働者は、当該制度の適用された場合の労働条件による労働契約の成立を主張して争うことができます(最判H24.11.29労判1064号13頁参照)。
労働契約の成立を主張して行う地位確認請求であれば、勝訴した場合、定年退職後の不就労期間に継続して賃金が発生していたことになりますので、労働者にとって利益が大きく、地位確認請求ができる可能性のある事案であれば、まずは地位確認請求を優先的に検討すべきといえます。
これに対し、会社に継続雇用制度はあるものの、継続雇用後の労働条件は個別に協議して決定するなどとされていて、労働条件が明らかでない場合、賃金の額のような主要な労働条件も不明であるのに労働契約が成立したといえるかが問題となります。実際、そのようなケースで労働契約の成立を否定した裁判例もあります(札幌高判H22.9.30労判1013号160頁)。
会社が継続雇用制度を設けていない場合も、労働契約の成立は認められません。
労働契約の成立が否定される場合には、労働者としては、継続雇用の拒絶が不法行為にあたるものとして損害賠償請求をするほかありません。
問題は、損害の算定方法ですが、そもそもが賃金額が不明であるとすると、賃金の何か月分として算出することも困難であり、上記札幌高裁の裁判例こそ500万円という高額な損害額が認められているものの、100万円程度に止まる裁判例が多く見られます(H31.2.13東高判、H29.9.7福岡高判、H28.9.28名高判等)。
しかし、高年法のR3年改正では70歳までの継続雇用が努力義務化されており、高年齢者の継続雇用の確保に対する社会的要請は、ますます高まっています。
今後は過去の裁判例の水準を大幅に超える損害額が認められる事例も生じてくるのではないかと推測します。