少し前、「新型コロナワクチンの接種を命ずる使用者の要求を労働者が拒絶できる根拠は何か」と問うネット上の相談に「接種は努力義務に過ぎないから」と答える弁護士の回答を見ました。
では、労働者は会社に対して接種する努力義務は負っているのでしょうか。
予防接種法上、新型コロナワクチンの接種が努力義務だというのは国と国民との間の話です。労使間の権利義務とは直接関係がありません。
労働関係は労務の提供と賃金の支払をめぐる関係です。労働者が使用者に対して全人格的に従属するのではありません。労働者は、合意によって認められる業務命令権の範囲で労務を提供する義務を負いますが、自らの身体を使用者の恣意に委ねる義務を負っていません。
ワクチン接種をしなくとも労務の提供が可能である以上、労働者は使用者との関係で接種する義務を負わないのが原則です。使用者が接種を命じるとすれば、命令できることの特別の根拠は何かが問題となるのであって、逆(接種を拒絶できることの特別の根拠が問われる)ではありません。
仮に接種命令の根拠となりそうな就業規則の条項があったとして、その場合、当該条項がこの新規で安全性の不確かなmRNAワクチンに適用しうるのかが問題となりますし、適用しうる趣旨の条項であるとすれば、憲法13条(生命を享受する自由及び自己決定権の保障を含んでいます。)の設定する「公序」に反し、無効(民法90条)ではないかが問題となります。
少なくとも特別の根拠が無いなら、接種命令は業務命令権の範囲を逸脱する違法・無効な命令であることが明白であり、違法・無効な命令を拒否できるのは当然のことというべきでしょう。違法・無効な命令を拒絶したことを理由とする解雇や懲戒処分が行われたとして、それが違法・無効となることもまた当然です。